【歯ぎしりは止められる?】ナイトガード(マウスピース)の効果と選び方【歯医者が解説】

こんにちは、篠塚歯科医院です。
「朝起きると、顎がだるい・こわばっている」「家族に『夜、すごい音で歯ぎしりしてるよ』と言われた」「詰め物がよく取れる」「歯の先が平らにすり減ってきた気がする」——そんな心当たりはありませんか。こうしたサインの背景にあることが多いのが、睡眠中の歯ぎしり・食いしばりです。その対策としてよく登場するのが、就寝時に装着するマウスピース「ナイトガード」。ただ、ここには大きな誤解があります。ナイトガードは歯ぎしりそのものを止める装置ではありません。今回は、浅草・本所吾妻橋エリアで「なるべく削らない予防歯科」に力を入れている当院が、ナイトガードで何が守れて何が守れないのか、ハードとソフトはどちらがよいのか、保険は使えるのかまで、研究データを交えてやさしく解説します。
歯ぎしりは決してめずらしくない
歯ぎしり・食いしばりは、程度の差はあっても多くの人にみられる、ごくありふれた現象です。世界中の調査をまとめた2024年の報告によると、睡眠中の歯ぎしりがみられる人は世界全体でおよそ21%、アジアでは約19%と推計されています[1]。この調査では、起きているあいだの食いしばりも約23%にみられるとされ、「夜だけの問題ではない」ことも示されています[1]。
子どもにも多くみられます。子どもの歯ぎしりを睡眠中の検査で詳しく調べた研究では、歯ぎしりの7割以上が、睡眠中の短い覚醒や体の動きと一緒に起きていたと報告されています[2]。歯ぎしりは「意思が弱いから」でも「行儀が悪いから」でもなく、眠りのリズムに連動して起きる体の反応なのです。
原因は「噛み合わせが悪いから」ではない

かつて歯科では「噛み合わせのズレが歯ぎしりを引き起こす」と考えられていました。しかし現在では、この考え方は見直されています[3]。睡眠中の歯ぎしりを扱った最近の総説でも、「歯ぎしりは顎関節症などの原因である」という従来の通説は主に専門家の経験に基づくものであり、近年はむしろ生理的な筋肉の活動である可能性を示す研究が報告されている、と整理されています[4]。
この変化はとても重要です。原因が噛み合わせだけではない以上、「歯を削って噛み合わせを整えれば歯ぎしりが治る」とは限らないということだからです。だからこそ当院では、元に戻せない処置(歯を削ること)を安易に選ばず、まず元に戻せる方法から検討します。
そのうえで、歯ぎしりを強めるきっかけとして次のようなものが知られています。
- ストレスや緊張、不安
- 飲酒・喫煙、就寝前のカフェイン
- 睡眠不足、いびきや睡眠時無呼吸などの睡眠の問題
- 日中に上下の歯を触れさせ続けるくせ(TCH)
放っておくと、口や関節に起きること
睡眠中の噛む力は、自分では加減ができません。当院のホームページでも、歯ぎしり・食いしばりによる影響として次のようなものを挙げています。
- 歯・歯ぐきへの影響……歯がすり減る、ヒビが入る、根が折れる、知覚過敏、詰め物がよく取れる、歯周病の悪化
- 筋肉への影響……顔のエラが張ってくる、肩こり、頭痛
- 顎関節への影響……顎が痛い、顎がカクカクする、口が開けにくい・閉じにくい
特に見落とされやすいのが「詰め物・被せ物が壊れる」というトラブルです。せっかく治した歯が短期間で壊れる、同じ場所ばかり再治療になる、という方は、その背景に強い噛みしめが隠れていることがあります。
ナイトガードの本当の効果——「止める」ではなく「守る」
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。睡眠中の歯ぎしりに対するマウスピースの効果を、たくさんの研究をまとめて調べた報告があります。厳しい基準を満たした5件の比較研究をまとめた結果、マウスピースを入れても、睡眠中の歯ぎしりそのものが減るという十分な証拠は得られませんでした[5]。一方でこの報告は「歯のすり減りに関しては利点があるかもしれない」とも述べています[5]。
つまりナイトガードは、歯ぎしりを治す薬のような装置ではなく、歯の身代わりになってくれる「盾」です。自分の歯がすり減る代わりにマウスピースが削れ、強い力を分散して、歯・詰め物・顎関節にかかる負担をやわらげます。当院のホームページでも、マウスピースの目的を「クッションの役割として力を分散し『歯と顎関節をリラックスさせる』こと」と説明しています。
この違いを知っておくと、期待はずれを防げます。「入れたのに歯ぎしりの音が止まらない」のは失敗ではありません。音や回数が変わらなくても、歯が守られていれば役目は果たしています。逆に「マウスピースを入れたからもう安心」と考えて、原因となる生活習慣や噛み合わせのチェックを放置してしまうのがいちばんもったいない使い方です。
ハードとソフト、どちらを選ぶべき?
ナイトガードには、硬い樹脂で作る「ハードタイプ」と、やわらかい素材の「ソフトタイプ」があります。やわらかいほうが優しそうに思えますが、研究の結果は少し意外です。
10人を対象に、夜間の筋肉の活動量を測った古典的な研究では、ハードタイプは10人中8人で筋肉の活動がはっきり減ったのに対し、ソフトタイプで減ったのは1人だけ、逆に5人では活動がはっきり増えていました[6]。やわらかい素材は「噛みごたえ」があるため、体が食べ物と勘違いして、かえって噛みしめてしまうのではないか、という見方もあります。
ただしこれは10人という少人数の古い研究であり、「ソフトは必ずダメ」という意味ではありません。装着感がつらくて続かなければ意味がありませんし、歯の状態や症状によってはやわらかい素材が向くこともあります。当院では「ハードタイプ・ソフトタイプの材質や厚みを変えていく」という考え方で、型取りをして一人ひとりの噛み合わせに合ったオーダーメイドの装置をお作りします。大切なのは「どちらが正解か」ではなく、その方に合ったものを選び、使いながら調整していくことです。
なお、市販の「お湯で軟らかくして自分で噛んで作る」タイプは、適合が不十分なまま使われがちです。合っていない装置は、噛み合わせの高さを狂わせたり、歯を動かしてしまったりすることがあります。長期間の使用を考えるなら、歯科医院での作製をおすすめします。
保険は使える?費用の目安
歯ぎしりや顎関節症と診断された場合、就寝時に使うマウスピース(口腔内装置)の作製は公的医療保険の対象です。国が定める歯科の診療報酬点数表に「口腔内装置」という項目があり、歯ぎしりに対して作った場合の取り扱いが決められています[7]。
一方で、次のようなものは治療ではないため保険の対象外(自費)になります。
- スポーツ中のけがを防ぐためのマウスガード
- ホワイトニングの薬剤を入れるためのトレー
- 症状がないのに「念のため」作っておきたい、という予防目的の装置
費用は、装置の種類(硬さや作り方)や、あわせて行う検査の内容によって変わります。正確な金額は診察のうえでご案内しますので、気になる方は受診時にお気軽にお尋ねください。
作製から使い始めまでの流れ

- 診査・診断……歯のすり減り方、頬や舌の圧痕、顎の筋肉の張り、顎関節の動きなどを確認します。
- 型取り……お口の型を採り、模型を作ります。
- 装着・調整……できあがった装置を入れ、噛み合わせを見ながら削って調整します。ここが装置の出来を左右する大事な工程です。
- 使用開始……最初の数日は違和感がありますが、使ううちに慣れていく方が多いです。
- 定期チェック……すり減り・変形・割れがないか、噛み合わせが変わっていないかを、メインテナンスのたびに確認します。
長持ちさせる5つのお手入れポイント
- 外したらすぐ、流水でやわらかい歯ブラシを使って洗う……唾液が乾くと汚れが固まって落ちにくくなります。
- 研磨剤入りの歯磨き剤で磨かない……装置の素材は歯より軟らかいため、細かい傷がつき、その傷に細菌が付きやすくなります。水だけで十分です。
- 熱湯・煮沸はしない……消毒のつもりでも、熱で変形して合わなくなります。食器洗い乾燥機もいけません。
- 専用の洗浄剤を定期的に使う……ブラシだけでは落ちない細かな汚れやにおいには、マウスピース用・入れ歯用の洗浄剤が有効です。
- 装着前に歯をきちんと磨く……汚れたまま入れると、歯と装置のあいだに細菌と糖が閉じ込められ、虫歯のリスクが上がります。
使用状況によりますが、装置には寿命があります。穴があく、割れる、変形する、噛み合わせが変わったと感じる——このいずれかがあれば作り替えのサインです。すり減って穴のあいた装置を使い続けると、力が一部の歯に集中して、かえって歯や顎を傷めることがあります。自己判断で使い続けず、一度ご相談ください。
ナイトガードだけに頼らない
ナイトガードは「守る」装置ですから、可能であれば、歯ぎしりを強めている背景にも同時にアプローチしたいところです。就寝前のお酒やカフェインを控える、睡眠時間を確保する、日中に上下の歯を接触させないよう意識する(気づいたら息を吐いて力を抜く)といった生活面の工夫は、どなたでも今日から始められます。
そのうえで、歯科医院では噛み合わせの調整や歯列矯正、咬筋へのボトックス注射、筋肉のマッサージといった選択肢もあります。当院ではお口の状態と生活背景をうかがったうえで、負担の少ない方法から順にご提案しています。
よくある質問

Q. ナイトガードを使えば歯ぎしりは治りますか?
A. 歯ぎしりの回数そのものを減らす装置ではありません。研究をまとめた報告でも、睡眠中の歯ぎしりが減るという十分な証拠は示されていません[5]。目的は、歯や詰め物、顎関節を強い力から守ることです。「音が止まらない=効いていない」ではありませんのでご安心ください。
Q. 毎晩つけないといけませんか?
A. 守るための装置ですので、基本的には毎晩の装着をおすすめします。ただし、使い始めで眠れないほどつらい場合は無理をせず、装置が合っているか調整が必要か、遠慮なくご相談ください。
Q. 市販のマウスピースではいけませんか?
A. 手軽ですが、適合が不十分なまま使われることが多く、噛み合わせの高さが狂ったり歯が動いたりするおそれがあります。やわらかい素材のマウスピースでは、かえって噛む筋肉の活動が増えた人がいたという報告もあります[6]。長く使うなら歯科医院での作製をおすすめします。
Q. マウスピースをすると虫歯になりやすいと聞きました。
A. 汚れたまま装着すると、歯と装置のあいだに細菌と糖が閉じ込められてリスクが上がります。逆に言えば、装着前の歯みがきと装置の洗浄を習慣にすれば心配は大きく減ります。定期的なチェックとあわせて管理していきましょう。
Q. 自分が歯ぎしりしているか分かりません。どうすれば?
A. 音を指摘されたことがなくても、朝の顎のだるさ、歯のすり減り、詰め物の破損、頬の内側や舌のふちの圧痕などから推測できます。歯科医院で口の中を確認すれば手がかりが得られますので、気になる方は一度ご相談ください。
まとめ
ナイトガードは、歯ぎしりを止める装置ではなく、歯と顎を守る「盾」です。世界の調査では睡眠中の歯ぎしりがある人はおよそ21%と決してめずらしくなく、その力は歯のすり減り、ヒビ、詰め物の破損、顎の痛みといった形で少しずつ蓄積していきます。装置で受け止められる負担は、想像以上に大きなものです。
素材はハードとソフトがあり、研究上はハードタイプが筋肉の活動を抑えやすいと報告されていますが、装着感や症状によって最適解は変わります。市販品ではなく、型を採ってご自身の噛み合わせに合わせた装置を作り、定期的に調整・点検していくことが、結果的にいちばんの近道です。歯ぎしりや顎関節症と診断されれば公的医療保険も使えます。
そして、装置だけに頼らないこともまた大切です。生活習慣を整え、噛み合わせや詰め物の状態を定期的に確認しながら、負担の少ない方法を組み合わせていきましょう。
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「朝起きると顎が疲れている」「家族に歯ぎしりを指摘された」「詰め物がよく取れる」という方は、一度お口の状態を確認してみませんか。今ある歯を長く使うために、できることはたくさんあります。どうぞお気軽にお問い合わせください。
篠塚歯科医院 歯学博士 篠塚嘉昭
参考文献
- Zieliński G ほか. Global Prevalence of Sleep Bruxism and Awake Bruxism in Pediatric and Adult Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2024;13(14):4259. PubMed
- Shiraishi Y ほか. Relationships between cortical, cardiac, and arousal-motor activities in the genesis of rhythmic masticatory muscle activity across sleep cycles in primary sleep bruxism children. Sleep. 2021;44(11):zsab156. PubMed
- Lobbezoo F ほか. Bruxism is mainly regulated centrally, not peripherally. J Oral Rehabil. 2001;28(12):1085-1091. PubMed
- 原節宏. 睡眠時ブラキシズムにおける歴史的通説の推移. 日本口腔顔面痛学会雑誌. 2026;18(1):11-19. J-STAGE
- Macedo CR ほか. Occlusal splints for treating sleep bruxism (tooth grinding). Cochrane Database Syst Rev. 2007;(4):CD005514. PubMed
- Okeson JP. The effects of hard and soft occlusal splints on nocturnal bruxism. J Am Dent Assoc. 1987;114(6):788-791. PubMed
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(歯科点数表の留意事項通知「I017 口腔内装置」) 資料を開く




